五感で楽しむ焼酎の「触れる」は、一度は触れてみたい(飲んでみたい)希少性の高い焼酎を紹介しよう。
少量生産かつ高い人気ゆえに入手困難なレア焼酎はいくつかあるが、そのひとつが、杜氏の里 笠沙(とうじのさとかささ)の「一どん(いっどん)」だ。
薩摩半島の西南端、南さつま市笠沙町。この地には、焼酎造りの高度な技を持つ杜氏集団「黒瀬杜氏」の集落がある。
黒瀬杜氏たちは仕込みの季節になると、九州一円の酒蔵に出稼ぎして腕を振るった。その技を伝承することを目的に設立されたのが、杜氏の里 笠沙である。
「麹を手作業で醸し、和甕で仕込み、木製蒸留機で蒸留するという、すべて手造りの伝統的手法で焼酎を造っています。機械を使わないので、それぞれの工程の温度管理は自分の五感と経験だけが頼りです」と説明するのは、 4代目杜氏を務める寺内章造さんだ。100有余年にわたって受け継がれた技がここにある。
杜氏の里 笠沙が製造する商品のなかでも一番人気が「一どん」。昔ながらの黄麹を使って造る焼酎で、口当たりが良く、黄麹がかもし出すフルーティーな吟醸香と甘みが特徴だ。のどを通過した後から芋の風味が時間差で押し寄せてくる。
より伝統的な製法をと考えた二代目杜氏が開発し、1995年に発売。当初は杜氏の里 笠沙内のショップのみの販売だったが、評判が評判を呼び、発売日には行列ができるように。ついには、遠くから訪れても買えない人が出る状況になったため、2002年からは往復はがきによる抽選のみの販売方法になった。
そんな「一どん」の飲み方は。「お湯割りがおすすめです。香りや味がよくわかります。食事なら刺身が合うと思います」と寺内さん。杜氏のエリート集団が培った伝統の味だ。
一度は飲みたい、希少性の高い焼酎としてよく知られているのは、森伊蔵酒造の「森伊蔵」だ。品質の高さや生産量の少なさから流通価格が高騰し、プレミア焼酎とも呼ばれている。
鹿児島県垂水市の錦江湾沿い、すぐ目の前に桜島がそびえ立つ場所に、森伊蔵酒造はある。1885年(明治18年)の創業以来、150坪ほどの決して広くはない敷地で、昔と変わらぬ伝統的な焼酎造りを続けている。
焼酎造りの重要なポイントのひとつは仕込み水であり、多くの焼酎メーカーは、山間部などで水質の優れた河川のそばに蔵を構える。森伊蔵酒造は海岸線沿いにあるが、すぐ後ろには高峰が連なる高隈山地が迫る立地だ。高隈山地に降った水がシラス層の土壌に染みこみ、それが地下水として蓄えられる。その地下水のみを焼酎造りに使っている。
「森伊蔵」を正規ルートで手に入れるのは、本当に難しい。人気が沸騰し全国的に知られるようになって久しいが、蔵を拡張することはしない。
「原料のさつま芋は地元農家で契約栽培した黄金千貫、麹用の米は県産米、水は高隈山系の伏流水で、そして創業以来の蔵付き酵母菌を培養するために製造開始時は県産酵母を使っています」と語るのは、森伊蔵酒造・五代当主の森 覚志さん。
原料だけでなく、道具にもこだわる。一次・二次仕込みに使う容器は明治18年以来、和甕だけ。仕込み用の“かい棒”も職人の手作り。さらに大切にしているのは蔵の環境だ。
「焼酎造りの主役は微生物で、我々はそれをお手伝いするだけ。だから菌の世界である蔵のなかをキレイに保たないといけません。そのため、蔵見学も受け入れていませんし、製造期間中、蔵子は納豆やヨーグルトなどを食べるのも禁止。そうやって140年の間、蔵付き酵母菌を守ってきました」
酵母菌の優劣は、焼酎の品質に大きく影響する。現在の主流は、蔵付き酵母を純粋培養し安定感を増した優良酵母(培養酵母)だ。
だが、長い年月の間、継代を重ねるうちに蔵付き酵母が優良酵母を凌駕するケースがあるといわれている。森伊蔵酒造は、まさにこれではないだろうか。140年間守ってきた蔵付き酵母で仕込まれる焼酎だからこそ「森伊蔵」なのである。
原料、道具、環境に徹底的にこだわって造られた「森伊蔵」は、さつま芋本来のふくよかな香りと旨味のある繊細な味わい、淡麗な口あたりが特徴だ。“芋焼酎の弱点をすべてなくしたら、こうなるのか” という印象が強く残った。
他では類を見ない個性をもつ「森伊蔵」に合う料理は、どんなものだろう?
当主の森さんに聞くと、「私は森伊蔵だけを味わいたいから一緒に料理は食べません。でも、あえていうなら鹿児島の郷土料理である、山川漬(大根の壷漬け)やガランツ(イワシの丸干し)が合いますね」と教えてくれた。
入手困難なゆえにプレミアム価格が付いている森伊蔵だが、電話登録、高島屋・山形屋の抽選販売で当選すれば正規価格で購入できる。根気よく抽選に参加し続ければ、いつか幸運に恵まれるかもしれない。
焼酎道場がおすすめする「触れる」焼酎は、プレミア焼酎のひとつ「村尾」だ。伝統的な”かめ壺仕込み” でつくられている。
口あたりはまろやかで芋の甘みを感じられる。芋感は強いが、非常にバランスが良く飲みやすい。芋の余韻も心地よく上品だ。
なかなか手に入らない、一度は飲んでみたい幻の焼酎、「一どん」「森伊蔵」を、なんと指宿白水館と焼酎道場では両方注文することができるし、試飲もできる。もちろん「村尾」もある。入手困難なプレミアム焼酎を飲み比べられるのだから、それだけでも指宿白水館に泊まる価値はある。