島といえば、青い空・美しい海といったリゾート的なイメージが強いが、奄美大島では、他とは違った楽しみ方がある。それは1,300年の歴史を持つ奄美大島の伝統的工芸品「大島紬(おおしまつむぎ)」の体験だ。
奄美大島の伝統的工芸品「本場大島紬」。その起源は定かではないが、東大寺の献物帳に記述があることから、約1,300年の歴史があるといわれる。絹糸を泥で染めることで出現する独特の「黒」と、世界一の精密さを誇るといわれる図柄が特徴で、高級反物の代名詞の一つとなっている。
高級ゆえに「手が届かない」と思いがちだが、大島紬をもっと身近に、日常のファッションとして楽しめるアイテムも意外にたくさんある。
鹿児島市内にあり、奄美の自然や文化に触れられる「奄美の里」内の「都喜ヱ門コーナー」では、大島紬の着物や帯だけでなく、ネクタイ、帽子、ストール、洋服、ベスト、作務衣などを扱っている。すべて手織りによって作られる、世界に一つだけのアイテム。いつものコーディネイトにさりげなく追加してみてはいかがだろうか。
奄美大島の観光スポット「大島紬村」では、本場大島紬の作業工程を見学し、実際に体験もできる。
ハンカチ、Tシャツ、ストールなどを泥などで染めてオリジナルアイテムを製作できる「泥染め体験」、大島紬を実際に織って職人気分を味わう「織り体験」、憧れの本場奄美大島紬を着て記念撮影ができる「着付体験」といった体験メニューがそろっている。しま旅のプランに加えれば貴重な思い出ができるだろう。
販売のコーナーもあり、最高級の本場奄美大島紬のほか、アロハシャツや帽子、小物などの大島紬商品を多数取りそろえている。またこれらはオンラインショップで買うことも可能だ。
大島紬を使用した小銭入れ、コースター、大島紬柄のスマホケースなどのユニークな商品がある。
大島紬に興味を抱いたら、職人を目指してみるという手もある。本場大島紬はすべて手作業で、何人もの職人がかかわり、40以上もの気の遠くなるような工程を経て作られる。他の伝統的工芸品と同様に、大島紬の職人も後継者が減り、伝統を受け継ぐのが難しい状況になっている。
それらを踏まえてか、奄美大島では伝統を守るため若い世代を積極的に受け入れる体制が整っている。たとえば本場奄美大島紬協同組合が運営する本場奄美大島紬技術専門学院は、未来の「織工」を育てる養成校として毎年10名程度を募集している。
鹿児島県出身の山口つぐみさん、兵庫県出身の長田ゆいさんも同学院で学んだ生徒で、現在は織工として活躍している。
「奄美大島紬の着物に興味を持ち、東京の大学を卒業してすぐに移住してきました。
最初の1年間は紬学院で学び、現在は自宅で作業しています。織りを始めて5年になりますが、まだまだ修行ですね」
「祖母が大島紬の織工だったことで興味を持ち、たまたま見学に来た時に、『織ってみれば?』といわれて体験したのがきっかけです。大島紬の魅力は、パッと見てすごさがわかる細かい図柄。
それだけに織りの工程は大変ですが、図案通りにピタッと織り上がった時は快感です」
2人とも移住者だが、奄美大島での生活はどうなのだろうか。
「地方なので、人との距離感がやけに近いところに最初の頃は戸惑いました。でも最近ではだいぶ慣れました。何か嫌なことがあっても、海や山などの自然の景色を眺めてリフレッシュします」(山口さん)
「私も奄美の自然は大好きですが、たまに飛行機1本で戻れる地元関西へ遊びに行って気分転換しています。機織りは楽しいのですが、この仕事だけでは生活できないためアルバイトもしています。どこまで続けられるかわかりませんが、お世話になった先生や先輩方に恩返しできるよう、これからも精進していきたいです」(長田さん)
大島紬職人の平均年齢が約70歳となり、後継者不足が懸念されている。また、若い世代が職人になっても食べていくのが厳しいという問題もある。そんな状況を打破するために、立ち上がったプロジェクトがある。「本場奄美大島紬NEXTプロジェクト」だ。
全工程を若い世代の手で作り、同世代に着てもらえるような製品を考え、クラウドファンディングを活用するなど新しい販売方法も取り入れて、職人に適正な賃金が支給できる仕組みをつくろうとしている。今回話を伺った長田さんもメンバーの1人だ。大島紬の未来をつなぐ取り組みとして、今後の展開が期待される。
伝統の大島紬に触れた後は、地元の料理を味わいたい。今回、ランチで訪れたのは、空港から車で10分のところにあるカフェ「奄美きょら海工房」。目の前に広がるきれいな海を眺めながら、島の食材を使ったこだわりのメニューを楽しめる。
「また、奄美の料理といえば「鶏飯」を忘れてはいけない。ご飯のうえに、ほぐした鶏肉や錦糸卵などの具を載せ、鶏ガラでだしをとったスープを掛けていただく。シンプルだが非常に味わい深い料理だ。
鶏飯は、島内はもちろん鹿児島本土でもさまざまな飲食店で食べることができる。それぞれの店で微妙に味が違うので、ぜひお気に入りの味を見つけてほしい。
国内各地から奄美空港へ直行便が飛んでいるが、2014年からLCC(格安航空会社)のバニラエアが就航したことで、グッと身近になった。
成田―奄美路線は片道7,000円程度からと非常にリーズナブル。今後はバニラと経営統合するピーチ・アビエーションがこの路線を引き継ぎ、一度廃止になった関西―奄美路線も復活する見込みだ。
奄美のイメージといえば美しい海。大島紬の織工・山口さんも、「飛行機が空港に降り立つ時、窓から海を見ると、故郷でもないのに『帰ってきたな~』と実感します」と語る。
奄美にはそんな癒やしの海が至るところにあるが、なかでも高い人気を誇るのが「土盛(ともり)海岸」。ブルーエンジェルともいわれる濃いエメラルドグリーンの美しさを、空港のすぐ近くで楽しむことができる。
他にも奄美にはまだまだ名所がある。白い砂浜に干潮時にのみ現れる自然にできる、ハート型の潮だまり「ハートロック」、ジャングルのような森の中をカヌーで探検できる「マングローブ自生地」などなど。
現地を訪れ、島の空気を味わえば、身も心も癒やされることは間違いない。