秋田犬による地域活性化プロジェクトには牽引役がいる。それが秋田犬ツーリズムだ。現在は、大館市周辺の4市町村の地域連携DMO、つまりインバウンドによる観光推進政策の舵取り役を担っている。
秋田犬ツーリズムの石田 徹さんは、大館市周辺の自治体が協力して観光事業に力を入れる理由として「秋田県を含め日本全体の人口が減少する傾向は今後も避けられないでしょう。そこで、インバウンドに着目し、この地域を訪れる交流人口の増加を目指すことにしました」と語る。
石田さんは「外国人にとって、東北は『未踏の地』。そこでまず一度外国人旅行客に秋田県に足を運んでもらい、リピーターになってほしい」と考えている。
秋田犬ツーリズムの主な業務として、海外へのプロモーション活動と地域活動がある。2016年11月、海外プロモーションの一環として「Let's MOFUMOFU AKITA」というサイトを開設し、秋田犬=秋田県というイメージを浸透させようとしている。
同時に秋田犬を擬人化した情報発信動画「Waiting4U~モフモフさせてあげる~」をYouTubeで公開した。秋田犬アイドルグループ「MOFUMOFU☆DOGS」が日本語、英語、繁体語の3カ国語で秋田の自慢のスポット・食・文化などを世界中に発信している。
秋田犬ツーリズムの地域活動は、大館市周辺の自治体間で観光客を受け入れる環境を整備することである。活動内容は、訪日観光に関するセミナー、インバウンド対応のおもてなし研修、指さし会話帳の作成、旅行商品づくりなど様々だ。
インバウンドに限らず観光事業を推進するためには、新たな観光資源の発掘が欠かせない。しかし、外国人のニーズに合った新しい観光コンテンツをゼロから作るのは、地域にとっても負担が大きい。
そこで石田さんは「地域の人も気づいていない既存コンテンツの掘り起こし、そして秋田犬など現存のコンテンツのブラッシュアップに力を注いでいます」と語る。現在、石田さんが注目しているのは、秋田県大館市生まれで台湾一の実業家として活躍した木村泰治だ。石田さんは、秋田県にゆかりのある偉人の掘り起こしにも余念がない。
また、秋田犬ツーリズムでは「外部からの目が重要」と考え、現在はアメリカ人スタッフも働いている。地域の人とは異なる視点や価値観などから学ぶことも多いそうだ。
秋田犬ツーリズムがインバウンド推進のために注目をしているのが、函館と仙台の2都市だ。2016年11月現在、台湾からは函館、仙台への直行便が運行している。
石田さんは、函館、仙台そして大館の3都市を結ぶトライアングルコースを周遊プランとし、その中のパーツの一つとして、この地域を位置づけ「外国人旅行客につなげたい」と将来の展開を語る。
日本の天然記念物である秋田犬というブランドを守るためには、日本在来種としての血統を保つことも重要である。しかし、海外では、国内から渡った秋田犬と他犬種が交配を重ねた「アメリカン・アキタ」も秋田犬と同一種と思われている。
そこで、日本の天然記念物である秋田犬の保護繁殖などの活動を行っているのが、秋田県大館市にある秋田犬保存会である。
秋田犬保存会には、約7万頭が登録され祖父母の名前までの血統が明らかになる。
秋田犬の体格、容姿、品格などを審査する展覧会も大切な事業だ。副会長の富樫安民さんは「その年で最も秋田犬らしい秋田犬が集まる展覧会は、秋田犬の原点であり最高峰でもあるんです」と語る。
また、「世界中に秋田犬の基準を浸透させるためには、本物の秋田犬を見てもらうことが大切」と考え、かつて秋田県のみの開催だったが、現在は全国で展覧会を開催するようになり、毎回多くの秋田犬ファンが足を運んでいる。
秋田犬保存会は、犬種の保存だけでなく秋田犬との触れ合いを求めて大館市を訪れる観光客への心遣いも忘れていない。「ここへくれば『秋田犬に会える』場所にしたい」と、秋田犬の歴史などを展示している秋田犬会館では、秋田犬の「ゆき」「くろべえ」「夏子」が来館者を出迎えしてくれる。
秋田犬ツーリズムは、観光促進のアイコンとして秋田犬を活用するだけでなく、血統など守るべきものは秋田犬保存会と連携し、秋田犬の将来を見据えて地に足をつけた活動を展開している。
観光推進事業は、今ある観光資源を活用するだけでなく、保存して次の世代に伝えることも大切な事業なのだ。
秋田犬を秋田県のアイコンとして積極的に観光に活かしていこうという取り組みは、秋田県庁でも行われており、ふれあいの機会や広告媒体への掲出を増やすなど、県としても統一プロモーションを進めている。