明治政府が誕生するまで、北海道では狩猟・漁撈・採集を主とした独自のアイヌ文化が中心だった。本州以南では、弥生時代以降米作文化が発展したが、北の大地は農耕だけで暮らすには厳しく、狩猟と漁撈を柱とする北海道独自の文化が続いていたのだ。
最近では、アイヌ文化は文様などシンプルな美しさが注目され高い評価を得てきている。アイヌは機能的アートデザインの先駆者だったのだ。
近年は、アイヌによる装飾品や衣装の美しさへの注目が高まっている。さらに、明治時代の北海道を舞台とする人気漫画「ゴールデンカムイ」の影響などにより、若い世代にも関心が広がっているのだ。
北海道とアイヌ文化の関係性は深い。道内の地名や河川はアイヌ語由来のものが多く、地域の特徴や歴史などのエッセンスが凝縮されている。
「アイヌには、日本文化と違った自然観と文化があるので、知れば知るほど楽しめると思いますよ」と、(一財)アイヌ民族博物館 学芸課係長の八幡巴絵学芸員は教えてくれた。
そして、アイヌ文化はデザインという観点からも注目を集めている。このことについて八幡学芸員は「シンプルイズベストという、原点回帰かもしれませんね」と語る。
アイヌデザインはムダがなく美しい。アイヌは、ファッションセンスに優れ合理的なライフスタイルを送っていた民族なのである。
アイヌが身につけている民族衣装や儀式用の道具、小刀などには、独自のアイヌ文様が施されている。モレウ(渦巻)、アイウシ(棘)、シク(目)をベースとしたデザインは、自然の中で形作られた形象に美的に感銘を受けて工芸に採り入れられたとされている。
八幡学芸員によると「文様ごとの詳しい意味はわかっていないものの、組み合わせによる意味もある」そうだ。また、文様が一筆書きになっていて、衣装などを展開するとすべての文様がひとつの絵柄としてつながるのも特長だ。
アイヌの人たちは、北の大地で育った動物の皮や角、樹木などを使って、身の回りの品や衣装を作ってきた。神(カムイ)を敬い儀礼を重んじる先人たちは、ハレの日には、切伏文様(アップリケ)や刺繍文様などで装飾したルウンペ(色裂置文衣)、幅の広い白の切抜文様を貼ったカパラミプ(白布切抜文衣)の晴れ着を身にまとった。地域によって色やデザインも異なるため、作り手にとっては腕とセンスの見せどころだったのだろう。
はるか昔から受け継がれてきたアイヌ文様は、まるでシンメトリーの幾何学模様のようにシンプルでスタイリッシュであり、21世紀の現在においても斬新かつ新鮮なデザインだ。
しかし「直感的に美しいと感じる作品は、左右対称ではなく微妙なズレがあるんです。完璧でないというところが魅力なのかもしれませんね」と八幡学芸員は文様の奥深さを語る。
近年、アイヌ文化に対するデザイン価値が高まっている。2013年、平取町二風谷地区の工芸品「二風谷イタ」(盆)と二風谷アットゥシ」(樹皮の反物)は、北海道で初めて国の伝統的工芸品に指定された。新千歳空港国内線ターミナルの「アイヌモシリ」などアイヌ工芸品を常時販売している店舗も増えている。
最近は、伝統工芸品だけでなく、現在の感性やライフスタイルに合わせたアイヌアートも登場している。とくにアイヌ民族彫刻家 藤戸康平さんの作品は人気だ。
2017年夏、藤戸さんはイタリアで開催された世界中の先住民族フェスティバル、The Spirit of the Planetに、アイヌ民族代表として招かれ、木彫りのデモンストレーションを披露し、アイヌ文化を世界へと発信。イタリアの地形をアレンジした作品は、現地でも好評を博し大きな話題となった。
かつてアイヌが使っていた日用品や道具は、普段の生活で手に入りやすい素材を利用したものばかりだ。現在の生活に溶け込むようにアレンジされた品々は、アイヌならではの合理主義にも通じるかもしれない。
道内には、白老町・(一財)アイヌ民族博物館(2020年から国立アイヌ民族博物館)以外にも、先人たちの残した工芸品や民具を保存展示している施設がいくつもある。アイヌが多く暮らしていた地域では平取町にある二風谷アイヌ文化博物館、萱野茂 二風谷アイヌ資料館、釧路市阿寒町の阿寒湖アイヌシアター イコロなどがあり、道内の多くの公立博物館にも展示コーナーが設けられている。地域ごとの文様の違いを見比べるのも楽しい。
アイヌ文化を隅々まで理解するには、膨大な時間を要してしまう。
今すぐアイヌのことを知りたい!という方には、道庁インターネット放送局「Hokkai・Do・画」をおすすめしたい。
(公社)北海道アイヌ協会が企画する「アイヌ民芸品 展示・販売会」が開催される。毎年行われているこのイベントでは、さまざまなアイヌデザインのアイテムを購入することができる。
アイヌ民芸品 展示・販売会
【北海道会場】
新千歳空港 国内線ターミナル 2階 センタープラザ
平成30年2月16日(金)~18日(日)
【 東京会場 】
東京ミッドタウン ガレリア 3階 THE COVER NIPPON
平成30年2月1日(木)~28日(水)
【問合せ先】
公益社団法人北海道アイヌ協会
貝澤事務局長(011-221-0462)