五感で楽しむ焼酎の最後は「香る」。
ここでは、新たな香味を実現させた焼酎を紹介したい。
東シナ海を臨む鹿児島県いちき串木野市。遠洋マグロ漁業で知られるこの街に、明治元年より蔵を構え、本格焼酎の製造を行ってきたのが濵田酒造だ。同社が創業150周年を記念して2018年9月に発売したのが本格焼酎「だいやめ~DAIYAME~)」である。
DAIYAMEの大きな特徴は香りだ。口元にグラスを持っていくと、ライチのような華やかな香りが驚くほどに広がる。一瞬、焼酎であることを忘れるほどに。そして口に含めば、甘くまろやかな味わい。後味はキレがよく、続けてひとくち飲みたくなる。なぜこんな香りの高い焼酎を造ったのか。その理由を濵田酒造 技術部 部長 樋之口大作さんに聞いた。
「私たちは日本の焼酎を世界に広めていきたいという思いがあります。グローバルで焼酎を飲んでもらうために、大変重要なのが香りです。ウイスキーやブランデーなど海外の酒は香りの文化。それに対して焼酎や日本酒は、そこはかとない香りで、海外の人には物足りなく感じる。
もっと香りを追求した焼酎を造ろうと生まれたのが、DAIYAMEです」
香りの理由は、独自に開発した「香熟芋」にある。通常、焼酎に使う原料の芋は、新鮮さが何よりも重視される。しかし濵田酒造では、さまざまな試行錯誤を経て、収穫後に熟成させ香気を引き出した芋を原料に使うことに成功した。これによりDAIYAMEにリッチな香りが生まれた。
「だいやめとは、晩酌をして疲れを癒やすという意味の鹿児島の方言。だいやめ文化への想いを込めてこの商品名にしました。 DAIYAMEは炭酸割りにすることで一層華やかな香りを楽しむことができます。食中酒としては、味の濃い料理とよく合いますね」と樋之口さん。
さらにもう1本、香り高い焼酎がある。「西郷どんの夢(せごどんのゆめ)」だ。
こちらは一般的な黄金千貫と黒麹を使用しているが、独特なのは、酵母にはワイン用酵母を使用したことだ。それにより、完熟バナナのような甘くフルーティーな香りを実現した。
香り高い焼酎は世界を席巻するだろうか。幕末期、いちき串木野の地から英国留学に旅立った薩摩藩士たちのように、濵田酒造は熱い志とともに革新に挑み続けている。
かごっまふるさと屋台村の店舗番号17、いちき串木野市の食材を使った料理が味わえる「ツナバル」で、DAIYAMEに合う料理を探してみた。
いちき串木野市といえばマグロということで、「マグロカツ特製タルタルソース」を食す。脂の乗ったマグロは刺身もうまいが、カツにするとまた違った味が楽しめる。 続いて頼んだ「地鶏の炭火焼き 」は炭火で香ばしく焼いたジューシーな一品。 いずれもさわやかなDAIYAMEにぴったりだ。
指宿白水館「焼酎道場」がおすすめしてくれた「香る」焼酎は「薩摩 元禄」。よほどの通でなければ、その存在を知らないかもしれない。なぜなら、焼酎道場のオリジナル商品だから。樽仕込みの味の柔らかさと、芳醇な香りが特徴。また、樽独特のウイスキーのような黄金色も美しい。お土産にも適した1本だ。
焼酎の香りが一層引き立つ飲み方が、お湯割りだ。その際の原則は「お湯が先、焼酎は後」。比重の軽いお湯を先に入れることで、後から入れた常温の焼酎と、グラス内でよく混ざり合う。70~80℃くらいのお湯を使い、焼酎とお湯を6:4の割合で注げば、もっとも香りが引き立つ状態で飲める。
また、鹿児島では定番の飲み方に「お茶割り」がある。使うのは緑茶。緑茶のほのかな香りと焼酎の風味は相性がよく、より豊かな香りが楽しめて、ビタミンCも摂取できる。ぜひお試しあれ。
鹿児島の焼酎として、芋焼酎と並ぶ存在が奄美黒糖焼酎だ。奄美大島の主要産物である黒糖を原料とする本格焼酎である。
黒糖焼酎は、同じくサトウキビを原料植物とするラム酒に似た、甘い香りとコクが特徴。その香りから想像するよりも味はさっぱりとしていて、糖質はゼロ。水割り、ロックなど、どんな飲み方でも楽しめる。
1953年にアメリカから奄美諸島が返還された際、黒糖を原料とする焼酎造りは、酒税法の特例として奄美諸島だけに認められることになった。以来、島の特産品として多くの蔵が黒糖焼酎造りに励んでいる。
かごっまふるさと屋台村の焼酎バー「維新館」で、店長の山下昭悟さんにおすすめの奄美黒糖焼酎をあげてもらった。
里の曙(町田酒造)
芳醇な香りと、まろやかな味わい。他社に先駆けて常圧蒸留機を取り入れ、癖のあるにおいや雑味を取り除き、黒糖焼酎のイメージを一新した。
昇龍 白ラベル(原田酒造)
5年貯蔵の古酒で甘い黒糖の香りとさわやかな喉ごしが味わい深い。
島のナポレオン(奄美大島にしかわ酒造)
徳之島の大自然が育んだ湧き水で造られた黒糖焼酎。すっきりと飲みやすく女性にもファンが多い。
喜界島(喜界島酒造)
長期熟成による甘い香りとまろやかな喉ごしが黒糖焼酎らしい1本。
稲乃露(沖永良部酒造)
通常の黒糖焼酎は蒸気で黒糖を溶かすが、稲乃露は熱でうま味が失われるのを防ぐために、固形の黒糖を手で砕いて使う。手間を掛けた分、豊かなコク。
鹿児島には、芋焼酎、黒糖焼酎を中心にさまざまな焼酎が存在し、それぞれ強い個性を放っている。鹿児島を巡り、飲食店で食事をしたり蔵見学をしたりして多くの焼酎を飲めば、自分の嗜好に合ったブランドにいくつも巡り会うことができるだろう。一度、焼酎を飲みに鹿児島を訪れてみてはいかがだろうか。五感が刺激され、今までにない感動が得られるはずだ。